6/2 空間班 ネットチェック

空間班のリサーチ結果です。(片桐、佐藤、中村、遠藤)


空間班はいきなり細部の確認にいってしまったったようですが、これから再設計で大事なのは、建物全体のバランスの中で、7階(と2階)をどう考え直すか、それにふさわしい材料をどう設定するか、ですから、常に全体をみることを忘れないように。
おすすめの図面は『伊東豊雄/ライト・ストラクチュアのディテール』(伊東豊雄建築設計事務所編著、彰国社、2001年)の222−223ページの各階断面図です。あれには壁は出てきませんが、smtでは壁はほとんど存在しないものとして設計されましたから(主張しないセメントパネルや西側の壁にミラーを貼っていたり、カーテンを吊るしているのはそういう意図と関係しています)、天井と床がわかるあの図面が大事なのです。あそこに書いてある材料が全部わかりますか?あのなかから今回新しくみなさんが使う材料を決められれば、自然に「その場所にふさわしい」建築にできると思います。
 それから各階に名前がついていることを思い出してください。エレベータの各階表示にも描かれているし、NTT出版のコンセプトブックにも書いてあるでしょう。1階はplaza、2階はinformation、3・4階はライブラリー、5階はギャラリー3300、6階はギャラリー4200、7階はstudioです。設計のときは(現場に入ってからすらも)このネーミングを設計チームは延々と考えていて、それにあった内装材を決めようと延々とやってました。他にもloungeとか、待合室、lobbyなどのネーミングも候補に挙がっていました。1階は空港の待合室みたいに人がしょっちゅう出入りしているとか、7階はラウンジ的にすこし会員がゆっくりできるゾーンのようなイメージがあるとか、いろいろ考えて、それにふさわしい材料を考えたわけです。
 7階は家具を設計したラブグローブさんが家具設計に際してこの階をthe garden of knowledge(知の庭)と名付けました。ネーミングは重要です。そしてそれがみなさんのデザインの方向を決め、ドライブさせてくれますよ。ぜひいいアイデアを出してください。詳細云々はそのあとでいい。骨格を示すことです。


1.細部の処理について


1、1F detail

・床の大理石の目地は、張り付いている点字ブロックやサインや設備にほぼ合っていて、600角のモジュールを基準にしていることが分かる。
・内壁に関して、壁についている設備、ロッカー・水飲み場・コンセント・自動販売機・建具は、壁の目地に合っていて、きれいに収まっていた。
・床と壁(押出し中空セメント)の目地に関して、合っている箇所が見当たらなかった。
・床と天井に関しては、ルーバーのつなぎ目が大理石の中心に来るようになっていたり、可動壁のレールと防煙たれ壁は、大理石の目地と合っていた。


設計のときは、床は床で、天井は天井で、きれいな割り付けと目地管理を目指していました。天井や床になにか取り付く場合はもちろん寸法を調整しています。ただ床と天井が目地がそろっているというのは結果として偶然そろっているだけです。メディアテークは「空間の原理」がそのまま立ちあがっている建物です。床は床面が永遠に均質に、天井は天井で永遠に均質に連続していればよかった。それがたまたま敷地の形状で切られて途切れているだけです。床と天井(と壁)が目地がきっちりそろっている必要はありませんでした。内部空間は床・壁・天井の3つの面で囲まれた閉じた空間としてではなく、どちらかというと連続床面と連続天井面の間(しかもその間の寸法(=階高)は階によって違う)として定義されている、という作られ方です。


Q1.1F部分に関しては、定禅寺通りのタイル(600mm角)が基準になり、それとスムーズに接続するようにモジュールや素材が選ばれている?並木とファサードの関係は?


1階の内部床はギリシャ産白大理石で、外部は桜御影と呼ばれる桜色の御影石です。1階の南側外部は少しだけメディアテークの敷地があり、そこはsmt工事で桜御影石を貼りました。それは当時定禅寺通りの整備計画があり、桜御影を貼るから同じものでそろえてくれと言われてそうしています。今見ると、実はグレーチング側溝の北側がsmt工事の桜御影で、南側が市の定禅寺通り整備工事の桜御影なんだけど、ぜんぜん色が違っちゃってるんですね。smt工事のほうは内外床石材とも含浸性の防汚塗料を塗ったのでそのあと汚れがつきづらくなって今でもまだ桜色がなんとなくわかる。整備工事のほうは石そのままを貼っているからか、今はだいぶ色が退色してます。5年検査のときにゼネコンの人が、あのときケチらないで防汚塗料塗っといてよかったですね、と言っていたのを思い出します。まあこれは本題とははなれますが。

ともかく、石の素材は同じですが、工事範囲の異なる領域の間にはグレーチングがあり、目地はそろっていないはずです。それは設計当初からわかっていたし、それでいいと思っていました。外のケヤキ並木とファサードは、とくになにか強い関係があるわけじゃないですが、建物南面はけやきを映しこむきれいなガラスのダブルススキンになってます。設計の途中で、チューブの柱の間隔が前面のケヤキの感覚と似ていることに気付いた、っていう記述をちゃんと見ましたか?『非線形の出来事』に伊東事務所の設計チーフの東さんが書いてます。


2、2F detail

・松原先生のコメントにあった通り、1Fに比べると、目地が合っている箇所が少なかった。
児童図書館内のチューブ周りに、子供のケガ防止用?のゴムが設置されていた。細かい配慮があった。


細かい配慮は、設計時のものもありますが、使用開始後に使用者がつけているものもたくさんあります。なかには設計者が見るとぎょっとするようなことも少なくないでしょうが…まあこの建物はそういうの少ないと思います。2階のエスカレータの両側にポスター貼る位置を確保するなど、使用後のことをいろいろ考えながら設計しましたから。


Q2.2F,3Fに上るエスカレータは南側に向いて登るようになっている。これは視界が開けるときにチューブと並木が一体となって見える視覚的効果もねらっているのか?


いや、それはあんまり考えてないでしょう。まあエスカレータの設置向きは今のと逆でもいけるわけですが、それでいうと上がったときに南側向いている今の方向は的確ですね。


3、3F detail

・エレベーター・エスカレーターから降りると、手で触るサインがすぐ近くにあり、そこから一直線で点字ブロックが伸び、受付カウンターが配置されていて、障害者への配慮が配置計画から読み取れた。
・裏の事務スペースにおいて、荷物で溢れていて収納が足りないのではないか?窓が少なく、光が足りない。


図書館さんについては、いろいろ不思議な部分があり、狭く感じる部分もあるでしょう。ただ地下2階に巨大な30万冊以上入る集密書架室があり、図書館には十分なスペースが当初から計画されていました。


4、7F detail

・エレベーター・エスカレーターから降りると、手で触るサインがすぐ近くにあり、そこから一直線で点字ブロックが伸び、受付カウンターが配置されていて、障害者への配慮が配置計画から読み取れた。
・裏の事務スペースにおいて、荷物で溢れていて収納が足りないのではないか?窓が少なく、光が足りない。


今回のみなさんの設計で収納スペースをどう考えるかは重要でしょうね。もちろん施主の意向を確認するべきだし、今のすでに持っているものをどうするかという点も考慮しないといけません。一方でスペースがあるとそれにあわせてモノも増えていくものです。どこかで線を引かなくてはいけないし、それは設計者の仕事でもありますが、使用者にも継続努力していただく必要があります。


Q3.曲線の決め方のルールが未だに発見出来ていない。壁面を変更する場合、そのルールに従うべきであろうが…。


7階壁面のアメーバカーブのことですね。まあ必要な諸室を真ん中に集めて、チューブなどに対応しながら決めていった自由なラインですから、みなさんなりの曲線を引き直せばいいでしょう。なにも曲線にしなくてもいいし、中央アイランドにする必要もありません。ただしきちんと幾何学的に決めたラインにすること。ベジェ曲線はだめです。曲線をどう定義しているかは、お渡しした7階の平面図キャドデータを見ればわかるはずです。細かい曲線の集合ですが、それらが中心と半径が与えられていることがわかりますか。そうしないと、図面情報は他人と共有できません。


5、7F 天井

蛍光灯の角度が6パターンに分類され、同一角度の蛍光灯は同一軸上に乗っている。


Q4.サーペンタインのように、アルゴリズムやあるルールが隠されているのか?(蛍光灯の直線を延長しても同じ軸上に乗る訳ではない)


あるエリア(5m角とか、10灯くらいのまとまり)の反復です。そのルールは今度知りたい人には教えますが、それを厳密に知ることはこのスタジオではあまり意味がない。みなさんなりの新しい天井を考えてもらって結構です。設計当時はアルゴリズムという言葉はあったけど、まだ今のように直接的に設計手法として使われる言葉ではありませんでしたね。目安としてはあの面積だとこれくらいの灯数の蛍光灯があれば大丈夫なんだ、と思っていただければよいです。どう灯具を位置するかはみなさんが考えればいいです。もちろん蛍光灯でなく、設計によってははやりのLEDや、別にダウンライトなどでも結構です。


2.被災マップ


 プロフィリットガラスやルーバー、等の破損状況をプロットした。特に南面の破損が目立つ。南面天井の被害が大きかった事と関係がありそう。現状で無事だった材料をそのまま保持するなら、このマップを基準に考えたい。


現状無事だったものをどこまで残すかはよく考えてください。あえて残すほうが面白いというのもあるでしょうね。プロフィリットをやめて新しい壁仕上げでアメーバ壁面位置は変えない。あるいはアメーバの位置を南側だけ変える、あるいは間仕切りを全部作り直す。どれも可とします。


3.矩計図

①2F 床、天井

②6F 東側壁面

③6F 西側壁面

④7F 天井



Q5. 曲面の壁の平面的な位置の変更は可能か?(プロフィリットガラスや押し出し中空セメントを支持している構造は移動できるか?固定なのか?)移動出来るならば、どこまで解体し置き換えるのか?固定であれば、どのような材料で代替可能か?(同じ寸法、同じ支持方法で代替出来る材料は?)
→オフィス部と外周部(スタジオ)との境界部分の矩計図の検証が必要ですが見つけられずにいます。


曲面壁の位置は変えてかまいませんし、その形状が直線でもいいですし、いかようにでもして結構です。


Q6.つり天井のロッドはスラブに直接接合されているので、これが天井部の設計をするときの基準(モジュール?)になりそう(韻を踏む?)。曲面引き方にも関係している?若しくは置き換える方法を考えられるか?


吊天井のロッドの位置はあまり重要ではないです。天井の作り方が決まればそれにあわせていかようにでもロッドを打てますから。ロッドの位置で韻を踏む必要はありません。曲面引き方とロッドはなにも関係ないです。最初に曲面、壁位置があり、それにあわせてロッドを打ちます。ロッドの位置は実際そう見えないでしょう?外周部のボード天井なら見えないし、アメーバ内の天井下地ルーバーゾーンでもルーバー以外はロッドもダクトもすべて黒く塗っています。これはつまり見えないものとして扱っているので、どこにロッドを打とうとあまり関係ない。


Q7.曲面壁とつり天井ロッドのモジュールの取り合いは?これも壁面位置の変更にも関係しそう。位置変更出来るとしても、スラブに直接接合されているため、制約にはなるか…。


ロッドは1m格子程度で打たれていますが、曲面壁とぶつかるところ、曲面壁オフセットした1m以内のゾーンなどだけロッドを打たず、それで持たないところは補助的に不規則にロッドを打っている程度だと思います。大丈夫です、曲面壁(アメーバ壁)は動かしていいし、ロッドはそれにあわせてとったりつけたりできます。


Q8.つり天井のロッドの長さ(373mm)は変更可能か?


天井を今の高さより上げたり下げたりしたいのであればできます。長いロッドは切ればいいし、短いロッドはつぎ足せます。今の天井高さはぎりぎりの無駄のない高さなので、天井を上げるのは難しいかな。下げるのはできます。上げるのも天井上の空調システムとダクティングから考え直せばできなくはないけれども…そこまでできるかなあ。


考察

・ 各階がチューブの機能(空調、排水等)に合わせて配置がされているため、秩序が保たれている気がするが、少しそれが強く、特に5番チューブ周りでの上下階の連動という視点から見れば、もう少し連続性を担保出来るようなレイアウトも考えられるのではないか?


いいじゃないですか、チューブに連動した家具レイアウトをもっとエスカレートして考えてみる、ということですね。


・ チューブの視覚認知的特徴をもう少し考慮した設計の手法もあるのではないか?特にチューブの表面と裏面が同時に見え、その面が移動するのに伴って刻々と変化する様子は特徴的であり、錯視的なサイン計画(ある一点から見たときにだけ認識できるとか、アニメーションのように移動に伴って形が変化するとか)等ができるのではないか。


そうそう、チューブの中のどこかだけ塗るとか、そういうリノベーションもあるかもしれないですね。


・ チューブという異質な物によって生まれる「場」の様なものを認識するためには、何かしらの補助線のようなものが必要なように思われる(例えば1Fであれば600mmタイルなど)。 でなければそこに存在する「場」がただ不安定なものになってしまうから。それは意識的に認識出来る物でも良いが、無意識に認識出来るものでもいいかもしれない。 特に7Fは壁面も曲線になっており、一番歪んだ「場」ができているような気がするため、そうした操作が重要なのではないか?(現状では壁面が垂直に立っていることが基準になっている?家具も補助線の役割をしているのかもしれない。)


そうですねえ。天井床にもっとはっきり目地を見せるとか、あるいはピクセル的な色の配置をするとかすれば、そういうことはできるかもしれないですね。あまり伊東さんの建物ではないけど、若々しい案にしてもらうというのもありだと思います。


Q9.SANAAのロレックスラーニングセンターでは起伏に富んだ床面を認識するための補助線として、天井高が一定になっているのか?


まあそれはいろいろ言えるだろうけどねえ…そういう解釈も可能だ、という程度の話しなのではないでしょうか。


全体を読むと、細かいところに目が行き過ぎている感じがします。もっと大きなところから、7階をこう変えます、他の階とこういう関係を作れるし、今の足りないこういう部分がこうよくなります、ということをすぱっと言えるような案を考えてください。そのためにこのリサーチで得た知識が活かせればいいんだけど。

非線形の出来事』には延々と続くプランのスタディの欄がありませんでしたか?あそこで7階のいろんな検討プランのスケッチが出ています。ああいうのも見ながら、よく情報を集めて、すごいの設計してください。

松原弘典/北京110602