ASB2010 仙台での最終講評会の模様をリポート

7月15日に東北大学のギャラリートンチクにてAsia Studio in Bursa 2010の合同最終講評会が行われ、東北大学から5チーム、中国の清華大学から2チームの作品が出展された。


今回の最終講評会には、スタジオマスターの松原弘典先生・小野田泰明教授以外にも、清華大学からXu Maoyan教授、Luo Deyin准教授、トルコ・Uludag大学からNeslihan Dostoglu教授をお招きし、多国籍な講評会となった。


今回はその模様を写真とともに振り返ってみよう。


まず、今回の課題を提示して頂いたUludag大学のネスリハン先生からの課題説明で講評スタート。

課題はトルコのブルサ市近郊にあるMisi村の再生計画である。
Misi村はブルサ市近郊にある人口1,400人程度の小さな村。この村やその周辺地域では耕作放棄地が増え、この村も都市化の波に飲み込まれていくことが予測される。しかし、この村には遺産級の歴史的建築物や街並、農地など都市部にはない豊かさが残っており、これらの資産をどう活用して、農業が衰退した村を再生していくかという課題である。


小野田先生から日本語で会場のみなさんに今回の課題説明やスタジオの進め方についてのイントロダクション中。

会場の雰囲気はこのような感じで、オーディエンスもたくさん集まってくださった。


ここから各チームのプレゼンテーションへ。
1番手は東北大学のチーム「ARC」

team ARC : Architecture×River×Children

 彼らの提案は日本の「少年自然の家」のような体験施設群を村の東側の未開発エリアを中心に建設するというもの。ブルサ市中心部の学校には満足な校庭もないことから、Misi村を彼らの課外活動の場として位置づけ、農業体験や自然とのふれあいを提供する場として再整備する計画である。

3人がそれぞれ中心にプラザを取り囲むようにドミトリー、バザール、学校、図書館をリノベーション手法を基に設計している。


 講評では、全体計画が有機的な配置を用いているのにPlazaが無機的な形状をしている矛盾を指摘され、Plazaの形状の違う提示方法があったのではないだろうか。
また、模型ではグラデーション的にエリア変化しているように見えるのに対して、マスタープランの図面は、ヒエラルキーが感じられる図となっていて乖離した印象がある。


2番手、東北大学のチーム「happy!」
team happy! : Stock Celebration!!

 彼らの提案はこのMisi村がブルサ市の広域都市圏の中で「祝い」というセグメントを担う場として位置づけるというユニークな案である。
 Misi村には都市化によって失われる土地の祝祭性のような雰囲気が残っている点に着目し、豊かな自然や景観を生かして「祝いの場」をつくることを目指していた。
具体的には、村の南西から北東に伸びる村のメインストリートを未開発の東側のエリアにまで延長し、そのストリート沿いに花畑やレストラン、ワインヤード、結婚式場などを計画している。

 今回2人は主に、北東エリアにあるセレモニーホールやワインヤードなどの新築設計を行い、既存の街並の祝祭性を生かしてMisiを祝祭産業によって再活性化しようとした。


 講評では、ネスリハン先生からミシの歴史的な街並と今回設計された白を基調とした建築がどのように調和するのか。どうして白なのか?という指摘があった。また、松原先生からは「ミシのように強いコンテクストのある土地で設計を行う時は、そのコンテクストに沿って設計をするか、または、全く別のコンテクストを用いて設計するかのどちらかであるべきだ。」という指摘に対する解答が弱かった。
本江先生からは、日本では白はニュートラルな印象があるが、トルコではまた異なった感じを与えるのではないか。五十嵐先生からは、白いカーテンがもつ意味は国によって人に与える印象は違うのではないか、など祝祭性の表現として「白」を安易にメタファーとして用いた所への指摘が多かった。祝祭空間の色彩やマテリアルにまでこだわりをみせてくれるとさらに良い提案となるだろう。



Lunch time♪

昨年の中国スタジオ経験者同士(東北大学清華大学)の1年ぶりの再会!!


ランチを挟んで3, 4番手は清華大学の発表。
日本チームと違い、大きな模型はないが、プレゼンテーションのつかみやボードのまとめ方など日本側も見習うところが多かったと思う。

team RED RIBBON from Tshinghua University


 team REDRIBBONは東側エリア周辺の様々な景観点を抽出し、各々の点に小さな建築的仕掛けを施し、それらをリボンのように繋ぐことで人の流れを誘導する建築群の提案している。昨年のチームのようなメガストラクチャーな印象もなく、スケール感もフィットしている印象を受けた。


4番手、team TRANS- from Tshinghua University



5番手、東北大学のチーム「BOS」
atelier BOS : Colony Garden

彼らは街に歴史的な古い空き家が多数存在することに着目し、その空き家と耕作放棄地をセットにしてブルサ都心部の住人に週末住宅のように貸し出すという提案である。
村の西側の旧市街に残る空き家の構造や形式を詳細にリサーチし、空き家のリノベーションと耕作用の農地の貸し出しによる新しい都市近郊滞在型農業ビジネスによりMisiを再活性化する計画。
彼らの設計ではその西側の一部をケーススタディとして、現在有効されていない裏庭スペースを耕作地として貸し出し、裏庭への入り口となる空き家を滞在施設兼ビジターセンターとして設計している。また、裏庭には様々な農業小施設が点在して配置されている。


講評では、分散配置された小屋配置のルールが曖昧な点、ネスリハン先生からは広場部分にも道を引いて、どのように小屋へアクセスするのか明確にした方がわかりやすくて良いという指摘があった。Luo先生からは様々なアイデアを案に詰め込もうとして最もやりたい部分が分かりにくくなっていると指摘があった。彼らの提案は主題が散文的になったところが周囲を戸惑わせたようだ。空き家の改修方法についてもう少し丁寧な解答が見たかった。
また、松原先生は既存の古い住宅と新築物とのコントラストを明確にすべきという指摘があり、このような歴史性の強い場所に作る新築の役割をもっと表現できればよかったのではないだろうか。




6番手、東北大学のチーム「AIR
team AIR : Art In Residence

彼らの提案は村の構造的特徴の考察から構築されていた。
ストーリーの骨子は、空き家が効果的に利用されていないという現状から、それらのリノベーションによってアーティスト・イン・レジデンスへと産業化しようという提案である。
また、一方で設計対象物は、それらリノベーション・レジデンスの配置と、村の地形的な特徴やピクチャレスクな特長を持つ地点の考察を通じて、アーティストたちが作品を発表するギャラリーやスタジオ、ワークショップ・スペース、インフォメーションセンターなどアーティストの活動をサポートし、村の住民との接点となる場を設計している。
リノベーションによるアーティスト・イン・レジデンスというストーリーの枠組みのなかで、それらを表現し、住民に還元する場を設計したと言える。


講評では、マスタープランとそれぞれの建物のデザインとの関係性が薄いように見受けられる点を指摘されていた。個人の設計に関しては全体的に構造についての考察と配慮が足りない印象を受けた。空き家のリノベーションはもちろん新築の建物についてもミシの伝統的な住居の構造などを取り込んで設計すれば設計の中身自体も少し変わってくるはずだ。また4つの建築がバラバラにデザインされているように見える。
それぞれ各場所性を読み込んだ設計を行っていたが、各拠点同士のデザインにも統一感を欠いた面がある。確かにそれぞれ個性の異なる場所性を持つポイントを選出してはいたが、ミシの伝統住居の構造に対する考察や配慮を行っていれば、構造に対する姿勢などから統一感も生まれてきたのではないだろうか。




大トリ、東北大学のチーム「MEGA VILLAGE」
team MEGA VILLAGE : MEGA VILLAGE

彼らの提案は、Misi村だけでなく、その背後にあるさらに小規模な3つの村と恊働によるメガな農業生産体系を構築するというもの。Misi村はその加工・物流拠点として位置づけ、村の東側エリアを新規開発している。
村を単体で見るのではなく、広域的な物流計画の視点からMisiの強みを挙げ、農業生産高と都市への物流能力の向上を掲げている。さらに、農地と人材の有効活用のため、各集落の人材を季節ごとに移動させ、拠点のMisiに人を集めることも計画している。
具体的な設計物は、収穫物の加工工場と体験施設の複合建築、また他の集落からの労働者や滞在者のためのゲストハウス、さらに農業学校であり、それらがメガプラザを取り囲む構成。


講評では、ネスリハン先生から農業学校と民宿の配置を逆にした方が民宿から川を見渡せるためより良い案になるなどの指摘もあった。また、彼らの案は広域の視点が肝であるがゆえに、Misi村という視点で見ると東側で計画したことが西側にどう広がっていくかという点にも注意を払った説明が必要だと感じた。一方で、松原先生からは、「こういう小さな村の再生計画ではどうしても小さな建築を装置として設定しがちであるのに対して、彼らのように大きな建築を作ってもリアリティのある提案も出来るという方向性を示した案だ」という評価も受けた。


巨大な模型

手伝いに参加して頂いた先輩・同級生・下級生諸君に心から感謝!!




総評


清華大学のXu先生(左)とLuo先生(右)

Xu先生は、グループによってはマスタープランと建築空間の間に乖離が見られたのが少し残念だったと評され、ローカルな地元の住民への配慮やその文化への敬意という繊細な配慮が提案にあまり見られなかった点を指摘した。もう少し地元の社会構造に配慮した提案ができればと感じた。




松原先生の総評:『schematic(図式的)』と『realistic(現実的)』


松原先生の総評では、今回の課題点として、『schematic(図式的)』と『realistic(現実的)』いう課題を挙げられた。


■『スキマティック(図式的)』
松原先生は、「大きな敷地で共同設計ということで、もちろんマスタープランをつくる段階では、みんなで意識共有のために図式的なものが必要だと思うが、個々の建築のデザインになったときにまでその図式(軸線など)に引っ張られる傾向が強かった。マスタープランにおける軸だとかよりも、実際に現地で体験した川縁ように居心地のよい空間が作れていた提案があるかというと今回の提案には少なかった。」と評されていた。
オーディエンスとしても、大きなマスタープランから個々の建築デザインへの接続が、プレゼンテーションの中ですんなり消化できないことが多かった。このようにマスタープランと建築空間に乖離が見られる点は清華大学のXu先生も同様の指摘をされていた。


■『リアリスティック(現実的)』
図式的なマスタープランに引っ張られず、土地のコンテクストや住民の文化・生活、地域の社会構造に則した提案が出来ればさらによい提案が出来ただろう。MEGA VILAGE やstock celebrationは新たなコンテクストの移植によって大きな建築でもありえるという現実性を示した点で意義深かった。








最後に。
今年度の課題は昨年までの中国から舞台を変え、トルコの小さな村の再生計画という課題でした。小さな村と言えど履修学生にとってはハンドリングした経験がない程敷地が広大な上に、ほぼ初めての共同設計、さらに昨年のスタジオと比べてメンバーが1人,2人少ない状況という過酷な課題だったと感じています。今年度の状況をみていると来年度はやはり4人1組が良いかなとも感じています。
しかし、そんな中でも、各チーム様々な視点から切り込んで、違う特長をもったものが提案できたことはすばらしかったと思います。欲を言えばもう少し速い段階でマスタープランを終わらせてほしかったですが。

個人としては共同設計を通じて自分の得手不得手が理解できた課題だったと思います。プレゼンがうまい人、チームのコンサルタントが得意な人、盛り上げ役、設計が速い人、英語ができる人、自分にないものも客観的にみれたのではないでしょうか。また、それによって自分がチームの中でどういう立ち振る舞いをすれば、チームの案がドライブされるか学んだと思います。
今回の経験を活かして後期の国際ワークショップでは海外の学生をリードしてください。



最後の最後ですが、スタジオマスターの松原弘典先生、小野田先生、Neslihan Dostoglu先生、Xu Maoyan先生、Luo Deyin先生ならびに今回の課題・講評会に参加してくださった先生方、トルコでお世話になったホームステイ先の家族の方々、模型を手伝ってくれた先輩方、同級生、下級生、すべての方々にこの場を借りて御礼申し上げます。



smtにて



松原先生には今年度の総評を掲載して頂く予定です。松原弘典先生からのコメントをお待ちしています。

TA