清華大学での松原エスキス/matsubara at Qinghua university

松原弘典です、こんにちは。
昨日清華大学建築学院で中国側学生のスタジオ進捗状況を見てきました。


2つのグループごとにマスタープランから建築単体の設計案まで見せてもらって、
私と許先生でチェックをしました。


2グループとも日本側と共有するマスタープランがあり、それについて多少
用途や容積率、道路の使用方法などについて独自のアレンジを加えて(つまる
ところ日中間で共有されたのはおおまかな道路の位置のみということに
なったようですが、まあそれはそれでいいと思う)設計を進めていました。
簡単にグループごとの状況、私のアドバイスをお伝えします。
私のアドバイスは日本側のみなさんにも役に立つと思う部分もあるのでよく
読んでください。易さんはすいませんがこの文章を中文か英文に訳して
中国側にも伝えてください。この文章に段落ごとに訳をつけるといいです。
とくに参考写真などは彼らに口頭で伝えましたが、ここで訳があるとより
正確に伝わるでしょう。


Aグループ
・北側の山から敷地に緑が貫入してくるというアイデアから始まって南の現状
入口広場を拡充して高低差のある広場を再整備していた。ここに巨大な衛生
陶器のモニュメントを設置。
・保存建築を限定し、しかも敷地に散在している。大胆に新築を入れている。
・南中央部の古い建物以外に、西北部の大きな既存建物を残して一部外部空間を貫入、
北側建物の部分保存と基礎露出、鍋炉房の保存と新壁面の追加など。


→松原・許指摘
・スケッチアップで簡単にボリューム操作だけするのは危険。既存建物を壊したり
新しいものを付け加えることに対してもう少し謙虚にならないと。
・もうすこし現況写真上でコラージュで設計案を考えるなど、質感のある状態で
スタディしたほうがいい。スケッチアップだけだとどうしてもリアリティがない。
・既存建物を部分的に取り壊す場合などは、構造の状況(柱の現状位置など)も
考慮してスパンにあわせて屋根をそこだけ抜くとか、専門家的な見地を入れないと
だめだ。
・既存の外壁を残して、そこに新しい要素を付け足すような手法は面白そう。
・3人のこれからの分業がやや不明確。3箇所集中するポイントを決めてそこを細かく
やったらどうか。まったくの新築の部分ははずして、新築と保存部分の混ざる
3箇所をうまくわけるといい。
・巨大な便器のモニュメントなんかやめなさい、もっと今あるものを使って美しい
ものができるはず。
・新築部分を一所懸命スタディするのはやや的外れ。古い建物を残すポイントを決め、
そこをどうやって新しいものを足して再生するのか、あるいは足さないで再生するのか
そこに集中すべき。実際、新築の高密度部分は民間に払い下げて民間デベが開発
するのだから私たちの今回の課題に直接かかわらない。むしろ払い下げないで政府が
整備する核心部分を、どうローコストで、効果的に、この場所にしかない空間として
再生させるかを考えないと。


Bグループ
・万歳広場からセメント工場までの緑地帯を整備し、陶器工場敷地を東西にを交叉する
帯状緑地を提案。
・東西に高密度開発地区を集中させ、中央部の低密度開発を確保。自分たちの設計範囲は
中央部の帯状緑地の南側に限定。
・設計範囲内に展示空間、図書館、博物館、飲食商業を分けて配置し、4人がそれぞれ
設計する。


→松原・許指摘
・設計範囲内の空間のヒエラルキーが未確定。4つの機能分布まではわかるけれど、
保存地区全体の入り口はどこで、メインのひとのたまりはどこで、というような
もう少し上のレベルからの視点が必要。建物をほぼ保存しているので、きちんと
外部空間のヒエラルキーをつけないと方向がわからない、散漫な空間になって
しまいそうだ。
・展示、図書館、博物館、飲食のそれぞれのプログラムへの突込みが甘い。位置を
決めただけでそこにありきたりの展示空間、図書空間を入れているだけではだめ。
この工場の中では、の特別な空間を考えてほしい。「工場の中の図書館にしか想像
できない閲覧室とはどんなものか?」、「工場の中の展示空間でしか経験できない
展示方法とは?」というような問題に答えてほしい。


そのほか2組に共通した指摘
・こういう工場空間は、まず今の状態から、いらないものを取り去って外部を
きれいにしただけで十分に魅力的な空間がある、ということをよく認識して
ほしい。みんながへんに表現して余計なものを足さなくても十分に面白い空間の
可能性の萌芽があるわけです。それを見つけ出してちょっとした建築的処理で
その芽を出すことが重要です。
・唐山には実質2日しかいなかったわけだけれど、それはこの空間について深く
考えられないということではない。工場空間というのは自分の身の回りにもあるし、
そこから十分に想像できるものです。自分の身の回りからの無理のない発想を
してほしい。
・チームでやっているメリット、楽しさが反映されるような作業工程を立ててほしい。
各人がパソコンを覗いてにらめっこして、じゃあまた来週見せ合おう、というので
なく、毎日同じ場所に集まってだれかが率先して模型を作り、各自の作業が常に
可視化している状態が望ましいでしょう。あるいは2人以上の設計範囲が入っている
アイレベルの敷地写真をつねにフォトショップで更新してまめに打ち出して壁に
貼るとか。こういう共同作業はいいもんです。建築をやっててよかったと
思えます。こういう機会しかないんだから、とことんお互いの作業を見える
ようにしたほうがよい。


最後に参考事例。あんまりこういうのはやりたくないんですが、みんなの頭が
あまりに硬いのが心配なので以下にSANAAとnouvelの事例を挙げます。どちらも
el croquisで見られるから、参照できるでしょう。


SANAA, Proposal for the Renovation of the Antique Quarter of Salerno
1998-, (EQ77(I)+99)


地面に色を塗り、サインも地面に書いてしまうというやり方で、既存建物を
いじらないで再生する。いくつか最低限のガラスのパヴィリオンを足すという
計画。こういう無理のない設定、うまいよねえ…


JEAN NOUVEL, EXPO 2002 Murten-Morat, Switzerland, (EQ112/113)




よくみると、面白いパヴィリオンがいっぱいです。みんなそのへんにある
あたりまえのものを使って、当たり前じゃない場所が作られている。我々は
こういうものを目指すべきなのではないでしょうか。


昨日中国国内にも新型インフルエンザ二次感染者が出ました。水際対策は
中国に新型インフルが入ってくることを防ぐことはできません、せいぜい
数ヶ月遅らすだけです。日本にも数日前にあったように、中国国内の感染が
広がれば、水際管理はゆるくなり中国側大学生の訪日日程も決まるでしょう。
そう遠くない時期に決まると思います。日本側は万全の準備をいままでどおり
粛々と進めてください。


以上です、ご健闘を。


松原弘典/北京