ついに中国スタジオ2009の最終講評会が行われた。
部屋いっぱいに置かれた模型と図面たちには迫力があった。


最終講評会には、スタジオマスターの松原弘典先生・小野田泰明教授以外にも、本江正茂准教授・堀口徹助教が参加し、意見飛び交う講評会となった。
その模様を写真とともに振り返ってみよう。


まず松原先生から、この課題の主な概要等の説明から講評会はスタートした。


たくさんのギャラリー、そして緊張感


そして各チームのプレゼンへ。
最初のチームは「劇団4人」

Tシャツに「劇団四人」と書かれている


工場を劇場空間としてリノベーション。模型や図面の迫力が最もあったチームだ。
リノベーションの手法としては、既存工場施設を"チーズ"のように所々欠き取る(外部空間にする)ことで、外部空間を広くし、多様な広場が作られる。その欠き取られた内部空間は工場という巨大な施設を縮小し、ヒューマンスケールな空間に変化する。
工場のヴォリュームを欠き取るという手法が構造的にも考えられ、手法としては一つの大きな流れが見えたいいアイデアだという評価だった。
しかし、課題としては劇場として使われるという提案が、劇場という非日常の使われ方しか表しておらず、その空間の日常的な使われ方(劇場ではない時)が説明されず、描かれていなかった事が大きなものだった。
また、"チーズ"によって欠き取られた空間も、ただ欠き取られるだけで、内部と関係を作ったり、ただ大きな広場になっているだけの空間になっているようにみえてしまい、その部分の面白さを表現しきれずにいるという評価だった。
チームとして一貫した手法を用いて全体を計画したことで、統一感は最もあったチームだった。

巨大な1/50模型

巨大図面を前に講評中



次はチーム「もざいく


敷地工場の歴史から、何度も増築が繰り返され高密度な工場地域となったことを読み取り、その増築の歴史に繋がるようにリノベーションの計画も段階的に行っていく提案。その際に、様々な建築的機能を段階的に挿入し、最終的にモザイク状の機能配置になるという計画だった。
個人設計の提案が多様で、一つは既存外壁を残し内部を虫食い状にヴォイドができるような手法。既存工場施設の間の空間を新築でつなげて一体的な建築にする提案。既存工場の壁(内壁・外壁どちらも)の位置を利用し、その壁を分厚くすることで、今までとは異なる空間に変化させる手法。
一貫したルールとしては、「外部を内部に引き込む」ということが統一されているという説明だった。
全体を統一するルールを明確に作るのではなく、小さなリノベーションの手法の集まりが全体を構成するという提案。


しかし、講評としては、全体の統一感があまりにもなさすぎる事。小さな手法の集まりで解決できる敷地ではないくらいの規模をもった敷地であるのではないか。というものが多かった。
個人の設計はそれぞれにアイデアがありできてはいるが、それをつなげるランドスケープや外部空間の充実ができずに、チームとしてまとまりがないように見えてしまった。

統一感があまり出せなかった図面を前に、松原先生の突っ込み

チーム論について語る松原先生



3番目は「磊千直虹」


リノベーションの手法として、既存建物を他チームのように保存するのではなく、新築を作る事で既存施設の保存を考えるという提案。
保存するものとして、かつてこの工場が持っていたポケットパークを保存したり、壁ではなく柱を保存するような手法。
他チームと違い、新規の建物が立ち上がる異なった風景をつくり出そうとしていた。


しかし、そこに統一性がなく、かつポケットパークや柱の保存の手法も統一されず、それらをいかに保存するかという格闘が見えなかった事が問題となった。
このチームは、最もチームとしての設計に苦労しながら、もめ合いながら、一度は崩壊しかけた経緯もあり、提案にまだまだ踏み込めていないところがあった。
保存対象として、ポケットパークや柱などを取り上げることは可能性を感じるが、いかにそれを遺し人々に見せていくのか。そのアイデアがあまりにも乏しかった。

新築の目立つ模型で説明する「磊千直虹」

もっと考えるべきところがあった。
この経験を生かして、次の課題・今後の設計に生かしていってもらいたい。


ここで少々の休憩を挟み、最後のプレゼンテーションが行われた。


最後は「BORDERS」


ぱっと見ただけで図面の完成度が高く、まとまりを感じるチームだった。
提案は、図書機能を統一する機能とし、各個人が他の機能と組み合わせたり、既存施設でどのように本の空間を作り上げるかを考えていた。敷地のマスタープランとしても、敷地北側にある大きな緑地から南へとつながる緑地を敷地内に貫通させ、敷地中心に大きな広場をもうける事で、全体としてのまとまりが感じられた。
各提案としては、巨大工場施設の空間性を利用した長い長い本の空間。図書とホテルが一体となり、それを図書の螺旋とホテルの螺旋という二重の螺旋で空間を構成するもの。既存施設の大小様々な大きさを持つ空間性を利用しアトリエと図書の機能を混合たもの。当地がワインの産地となる事、緑地のつながりとしての菜園を工場空間内に持ち込み、巨大な温室のような施設をつくるもの。


提案も様々あったが、全体としての統一感も持っていた。
各個人の手法としても、既存施設の内部空間を外部化するような操作を行い、廃墟のような空間性を持たせているなど、小さな部分にも共通性を感じた。
チームとしての設計をうまくこなし、最後にきれいにまとめる事ができたチームだった。

プレゼンの流れにも個人間でつながりがあり、聞きやすい。

統一感ある図面を講評する松原先生


まとめに。
今回の課題はリノベーションという課題だったが、敷地がとても広く、かつ工場施設も様々なものが様々な場所に密度濃く配置される敷地だった。
そんな中で、巨大な全体を一つのまとまった場所として再生する方法と、個人の設計の手法。様々なスケールを横断して常に考え続けなければならない非常に困難で、チャレンジングな課題だった。
全体をまとめるにはチーム全員での話し合いが必要で、そのルールを明確に決める事で、個人の設計も全体と統一された強度の強い案になっていくことを学ぶことができる課題だったのではないだろうか。
チームでの巨大な設計を、今回初めて経験した院生1年目のみんなは、まだまだなれない点やうまくいかない点が多く、それが最後の作品に大きく影響した。しかし、松原先生の言葉を借りるなら、「これから社会に出て設計をする時はすべてがチームなのだから」チームで設計を行うことが足かせになるのではなく、チームを利用し、チームでしか生み出せないものを作る考え方を持つ事が大切なのだ。


いかに話し、いかにまとめ、全体として一つのものをつくりだせるのか。
今年もこの中国との共同設計課題は、みんなに貴重で大切な経験となったことだろう。


そして、来たる10月半ば。
清華大学が来仙予定だ。そこでまた、白熱した議論が起こることを期待しよう。



このブログに松原先生からの総評が掲載される予定。
松原弘典先生からのコメントお待ちしています。