松原キックオフログ

みなさんこんにちは、松原弘典です。

今年はトルコのブルサでワークショップをやることになりました。もうお調べになったと思いますが、ブルサには伊東忠太も行っています。野帳こちらの建築学会のサイトで見ることができます。81ページにブルサの温泉の絵があります。清華大学の学生8人と教員のグループもこの課題をやることになっていますのでいわば3カ国合同ワークショップになりました。名前もアジアスタジオとなり、来年度以降どうなるかという不安も残しつつ、風呂敷が広がったわけです。


課題の概要はTA龍神さんのログの通りです。みなさん作業を進めているでしょうか。昨日清華大学の許先生ともこの件について電話で話しをしました。清華も作業を始めているそうです。わからないことや資料の不足分などは手際よくまとめて、追加で資料を出してもらえそうなことについてはメールでトルコ側にお願いするようにしてください。今回は私もトルコのことがよくわかっているわけではないので、みなさんと一緒に知恵を出したいと思います。


少し経緯をお話ししておきます。今回トルコでワークショップをすることになった点について。ちょうどこの時期に三宅理一さん、古市徹雄さんらが中心になって進めている一連の国際会議が今年はトルコのイスタンブルで開かれることになったことと関係しています。「International Policy Forum on Urban Growth and History in Euro-Asia Corridor」と名付けられたそれは、2010年5月20日21日にイスタンブルで開催されます。会議のほかに現地大学とのワークショップを行おうと準備段階から動いていて、小野田先生がこのフォラムに私のモデレートするセッションにスピーカで参加していただくこともあり、中国からの参加者も多い会議だったので、この東北大のスタジオを今回のイベントに合体させてしまうように私のほうで考えたのでした。幸い小野田先生に早い時期からご理解をいただいたのでスムースに準備が進み、トルコ在住の日本人建築家山本達也さんのご紹介でブルサのウルダグ大学との連携がとれることになりました。トルコ側にもすごい熱烈歓迎してもらえそうです。


指導教員の顔ぶれも豪華です、いつもの日中の教員に加えて、イスタンブルでのフォラムに参加する三宅先生や古市先生もセッションに来ていただけるようですし、リロケーションや農村建築の再生で時の人の山下保博先生もご指導いただけます。ぜひ2010年3月号の新建築を見てください。リロケーション的視点は今回の課題にも役に立つと思います。


トルコの側が準備してくれた課題も大変面白そうです。世界遺産級の木造建築が周囲の農地とともに衰退しつつあるブルサ近郊の村ミシの再生です。なかなか私もイメージがまだできていないんですが、地方から文化を発信するにはどうするかという点から面白い提案ができればいいと思います。


すでに準備は進んでいると思いますが、いくつかアドバイスをします。

・今の作業はリサーチのあとマスタープラン設計という手順だと思いますが、リサーチのためのリサーチにならないように、設計のためのリサーチになるようにしないといけない。もちろんトルコの農環境や木造住宅の現状などを細かく知ることは役に立ちますが、外国人である私たちが外国にいながら細かいところを把握してもなかなか役に立てられない。どういうマスタープランを作るか戦略を立てつつ、そのためのリサーチをすべきです。先に戦略、あとからリサーチ。この逆はだめです。

・ではどういうマスタープランにするか…これは私もあまりまだわからないんだけど、結局いくつかのバリエーションを今回渡航時に先方に見せられればいいと思うんです。プログラムももちろん具体的に決められればいいんだけれど、それは今の段階ではまだ我々には難しい気もします。それよりは街路写真などから判断して、「計画の規模」を変えたマスタープランをいくつか用意する、という戦略はどうでしょうか。「全体的に大きく手を加える」「メインストリートまわりだけ大きく手をくわえてあとはなるべくいじらない」「建物は減築を主とし1つだけ新築をする」「川べりの修景と小学校の改築をメインとしあとは最低限の民家補修」などの方針をいくつか立てる。これはリサーチと並行しながら進める。リサーチで具体的なプログラムが設定できる(ワイン工場とか、子供のためのあそび場、とか…)ならそれもあてはめてみる。ネスリハン先生の書いたブックから判断するに、どうやら向こうは我々に川の東岸(小学校側)をおもに考えてもらいたいみたいですよね。西岸は建物も多く、おそらくあまりいじれないんでしょう。東岸をメインに考えるべきですが、そのアイデアが西にも波及して…というようなシナリオもあっていいかと。

・今みなさんに問われているのは、知らない場所を構想する想像力であり、それはいろんなレベルがあっていいと思います。グループがいくつかあるなら、リアルに近い人たちもいていいし、ぶっとんだ組もあっていい。大事なのはそれをもとに現地の人やトルコの大学生と議論できるようになっているか、です。

・模型はもう作っていますか?自分たち用に川の両岸=村全体の敷地模型があったほうがいいでしょう。これとは別に渡航時に持っていく模型も考えてください。これは飛行機に持ち込める箱から逆算して考えること。そう高いものにはならないから出前持ちの箱みたいに分割して何段かに重ねて箱に入れて機内持ち込みできたほうがよい。むこうに置いていってあげて喜ばれるようなきれいな模型があるといいです。「日本人はきれいな仕事をする」と思わせるようなコンパクトでわかりやすい模型を考える。

・重要なのは5月の渡航までに、議論のたたき台になるようなマスタープランを作成することであり、それは模型やわかりやすい図面を伴ったものでないといけない、ということです。案がわかりやすくビジュアルがあれば、地元のトルコ人の住民にもわかってもらえるし、多少英語がプアでもウルダグ・清華の学生とも意思疎通できるでしょう。

・こういうことは就職するとよくあります。行ったことがない場所に、限られた材料でなにか提案をつくる。限られた材料をいかに面白く料理できるか、というのは一つのセンスが問われる行為です。楽しそうにやっている感じを出してください、それがうまくいくコツです。お勉強してます、ふうの固いのはだめです。伊東忠太のブルサの絵はそれを地で行っている。100年前の明治人があそこまでやってるんだから、みなさんも「真剣に楽しんで」ください。

・このブログは、清華のほうは日本語がわかるので見ているはずです。トルコのほうは…どうかわからない。特に渡航前はみなさんの作業風景を写真でマメに上げ、上げたらTA龍神さんはそれをトルコ側(とフォラム関係者)にその都度メールしてください。楽しそうにやっているのを見せることで向こうのモチベーションも上がるでしょう。

・次回私は5月8日(土)に仙台にうかがいます。1300-からです。よろしくお願いします。

松原弘典/北京