松原です04

ご苦労様です、だいたいみなさんの案を見ました。


■プロジェクトの射程
まず最初に多くの人の案がかなり非現実的になっていて
軌道修正をお願いしたいです。ぱっと見た感じ、「中庭型の
住宅であれば、あとは面白くなればいい」という印象の案が
多いように見受けられました。コンペ案みたいに見える。
院生のスタジオですから、もっとリアリスティックになって
ほしいと思っています。この段階で施主の意見を聞こうかと
思っていたんですが、あまりに非現実的なのでそれはやめました。
一度現実とのすり合わせをしてからですね。現実の枠の中で
どこまでその枠組みをゆさぶれるか、という射程でやって
ほしいと思っています。これはアイデア勝負で終わらないように
してほしいという意味でもあります。


私たちのほうからの条件の伝え方に舌足らずのところも
あったかもしれませんが、中山氏からの状況説明文である
「outline」のところに以下のような文章があったはずです。


1:高さ規制
「施工前後に一回ずつ役所の検査がある。一回目は既存の高さ、
位置を、2回目の検査は1回目の高さ、位置が変わっていないかを
調べる。要は、現在のある地点の高さは変更できない。
ただし、その高さは入口を入った地点を±0として基準にした
高さである。また、検査される高さは、各建物の角部(スケッチ参照)
である。2回目の検査後に、追加工事は可能である。
2: 面積
検査までは既存の建築床面積は変更してはいけない。


これは事実上、新築であれ改築であれ検査前は外壁(敷地境界外壁だけ
でなく中庭側の壁も含む)の位置は動かせない、ということを意味します。
検査前までは北、東、西棟の位置は動かせないし、その枠組みがのこる。
ただし高さを変えなければ屋根の形などは変えることはありうるし、
壁をすべて作り直して穴を開けることなどは可能なわけです。
そして検査後であれば(目立たない限りにおいて)壁をどうかえても
いいし屋根をかけてもいい。(しかしそこでは施主が合意できるような
合理的な工期の分割が必要です)


壁位置を動かしてはいけない、こうした規制が今急速に開発されて
なくなりつつある四合院を保存しようとする役所の側の対策の
論理であり、我々はそれをまずまもらなくてはなりません。
そしてそれをどうくぐりぬけて性能的に充実した住宅を確保できるか、
(つまり検査の後どういう改造の姿を提示できるか)、住人の側に
たった提案をすることが設計者には求められています。


そうなると、あくまで最初の前提をクリアしているかという点で
16人のをぱっと見た限り、


・加茂川君、丹治君のはまじめに私たちの高さ条件文を守って(ポイントの
建物高さを柱を残すなどして守っている)けど、私たちの言い方が十分で
なかったのでこのままだときちんと文脈に乗り切れていないから、修正が
必要そう。
・小野君と松本君と本間君のは成り立ちそうに見える。
・新谷君のは検査後に壊すものが大きすぎる気がするけど、成り立たなくは
ないか。
・花ゲ崎さんと馬場君と鐵君のは今のままでは成り立たないと思う。
・高橋君のは成り立つけど、考え方自体がナイーブ過ぎる気がする
・池田君と藤木君と丸井君と金井君と杤尾君のは中庭の形をもとのままにした
一期があって、それから二期でどうするかというふうにすれば成り立つか。
・野中君のは、地下はかまわないけれど、やはり一期できちんと今の中庭の
形を守らないとダメ。


案のよしあしはまずスタートラインをそろえてからですね。
リアルな場所にたった案になってから(来週そうなっていることを期待して
いますが)案の内容について話ができればと思います。
ぱっと見てまだあんまりクライアントの生活像を反映させた平面になって
いない気がしたんですが、どうでしょうか?


■想定される成果物
図面の形式などはまあもう少しあとから決めるとして、今回の課題で必ず最終
成果物に混ぜてもらいたいものは以下です。こういうのはどんどん次回私が
仙台にうかがうときから見せてください。
・一期工事後(竣工検査前)の状態と検査後の二期工事の状態を描いた図面。
・1/1から1/10くらいの重要な部分に関する詳細図(各人で何を描くかをよく
考える)
・内部もテクスチャもわかる大きい模型


■ヒント
・それからみなさん院生ですから、周辺コンテクスト、クライアント、
プログラムだけでなく、構法も設計の取っ掛かりにしてもいいと思います。
ちなみに北京の四合院をつくるレンガは黒いもので、寸法は240x115x50です。
最終的にはレンガの積み方まで考えた設計を考えてほしいものです。
今度仙台まで持参するつもりです。
・この設計演習は北京の四合院を取り上げていますが、増改築という行為
自体は仙台にもきっとたくさん見られるでしょう。自分の身の回りから
どこまでここで役立つヒントを見出せるか、そこにむしろこの課題の
ポイントはあるような気がします。
・北京の冬の寒さと乾燥、西風と黄砂、そういう環境的な要因に目を向けた案が
なかったように思えたのは気のせいでしょうか。
・阿部仁史先生がむかしの建築文化の巻頭に、アメリカ西海岸での生活体験を
元に「壁に穴をあけよう」という内容の文章を書かれていたと記憶しています。
それをぜひ見つけて読んでみてください。ここでの設計はああいう態度に
近いものだと私は考えています。


以上です。来週はすごい案にあえることを楽しみにしています。


松原弘典/北京